かまえず、背伸びせず、福音語る
手塚治虫の虫プロダクションにいたユニークな経歴をもち、「俗人牧師」を自称する著者が、自らの生い立ち、アニメ漫画の世界でのこと、「インスタント・ラーメンを五十袋リュックに入れて横浜の港から」出発した20代の放浪旅行での体験、結婚後、牧師として歩みはじめてから現在にいたるまで、波瀾に富んだ半生を飾らない文章でつづった。「風に飛ぶもみがらのように」「さし込んできた陽の光」「小さな家族の頼りない船出」「俗人牧師の足跡」「終着駅(目的地)に向かって」の全5章で構成。各章節の最後には、聖書のみことばがそえられている。
「ゴキブリの雨」「ぼ、ぼ、ぼくらは少年探偵団」などのタイトルからも察せられるように、ふんだんにあるユーモアの中にも、ふと立ち止まって考えさせられるテーマがあり、福音が背景に裏打ちされている。
著者が本書に込めた願いは、決して上から下に向かってではなく「かまえず、背伸びもせず、しかし愛を込めて」福音を読者に届けることだという。たとえば、本文中に出てくるクリスチャン用語には解説がつくなど、クリスチャンでない人でも違和感なく読めるよう心遣いがされている。
表紙の「俺、俗人牧師」の大きなタイトル文字が目をひく、倉田明典氏の装幀もインパクトがある。身近な友人にさりげなく贈りたい1冊だ。
クリスチャン新聞 2005年3月27日号
「人生一度だけ、やりたいことをやれるだけやって死のう。」そんな思いと50食分のカップラーメンをリュックに詰め込み、ナホトカ行きの船に飛び乗った。ユーラシア大陸横断後、ヨーロッパを縦断、そしてアフリカ大陸へ・・・そんな世界旅行中、偶然、聖書を読み、救われる。
著者は元、虫プロダクションの漫画家で、現在は牧師。笑いとユーモア溢れる人生はまさに漫画そのもの。嘘のようで本当に起きた話を交えて、著者の証から半生をつづったエッセイ。神は純粋で自由な魂に働きかけ用いてくださる。そんな思いにさせられる一冊だ。
本書は時系列で構成されているが、スイスの山奥で救われてからの章末には、内容にそくした御言葉が必ず添えられている。ユーモラスな内容と御言葉が見事なハーモニーを作り出している。
リバイバル新聞 2005年3月6日号 書評 新刊を視る
牧師さんが半生記
アニメスタジオ勤務→独立→酒浸り→放浪
「虫プロ」時代の思い出もつづる
川崎市麻生区五カ田に住む柿生キリスト教会の牧師山守博昭さん(五七)が、自らの半生をつづった「俺、俗人牧師」(イーグレープ出版)を出版した。構えず、背伸びせずに生きてきた自分と向き合い、アニメスタジオ勤務時代から牧師として生きる現在までの歩みを五章立てで書き下ろしている。
高校時代は画家を目指していた山守さんが、虫プロダクションと出会ったのは二十一歳。日本アニメの草創期だった。「リボンの騎士」の背景画を皮切りに「あしたのジョー」「ムーミン」など多くのアニメを手がけた。
やがてフリーとして独立するが、心の破局が襲った。仕事がうまくいかず、酒に浸る日々、ささいなことでのケンカ。そこから抜け出し、自分を見つけたいと禅寺にこもり、滝に打たれた。たどり着いたのは「自分の思い描いたことをやってみよう。」その思いがインスタントラーメン五十個をリュックに入れた「世界放浪の旅」へと導いた。
横浜から船に乗りナホトカへ。最終目的地のインドにたどり着くまで各国を回ったが、資金が底をつきスイスの小さなホテルで無償で働く居候生活に。そこで聖書と巡り合い、日本へ戻った後、東京キリスト教短大に学び、牧師の道へと進んだ。
一人の牧師が歩んだ人生の紆余(うよ)曲折を赤裸々に描いた異色の本。山守さんは「聖書を読み、えらそうに愛を説いている。その自分が何者かといえば、そこらへんに転がっている俗人。表題はそんな意味から」と話している。本の問い合わせは柿生キリスト教会=電話042(735)765=へ。
東京新聞 2005年3月20日号 川崎版